(表表紙デザインはこんな感じです)
「あなたが我慢している事は何ですか?」
暴いて欲しくない言葉がある。
気付きたくない言葉がある。
選んだこの瞬間を君は後悔しているだろうか。
ここで生きる事を君は胸を張って誇る事は出来るだろうか。
君は過去に囚われず、未来を憂う事無く、今を生きているだろうか。
>>no-where,now-here preview
・タイトルは造語です
・最初はP40程度で手にとって頂いた方にさらっと読んでいただけるようなものを書く予定でした。
・蓋を開けてみればP80。どうしてこうなった。
・わりと初期SPNのような事件モノを書いたつもりです。…本人は(爆)
・サムの調子が悪い話と書くと見も蓋も無い感じですが、D→Sが強いです。
・以下本編からの抜粋。事件ものですので、当たり障りの無い箇所を少しだけ(笑)
あれ、とサムは思った。そして次の瞬間には何かおかしいな、と思った。
サムは思わずその違和感から立ち止まった。サムが立ち止まっても周りの景色はサムを置き去りにして流れる。サムの数歩先を歩いていた兄の背中がおぼろげな輪郭を持って周囲の光景との境界を曖昧にしていく。
変だ。そう思ったサムは、その『変』と総称するに相応しい違和感の正体を確かめようとした。
思わずサムは目を閉じた。五感の内で最も入ってくる情報の多い視覚を遮断した意識は、視覚情報に処理能力を奪われない分だけ集中力を増す。遮断していないはずの音も耳から遠ざかっていくような気がするから不思議だ。自身の違和感を探り始めたサムの表情はどこか苦し気なものだったが、己の内面に意識を集中させているサムはそれに気が付くことはない。
立ち止まり、目を閉じたまま、サムは頭を二、三回振ってみる。暗闇ばかりが広がる視界の中では何も見える事は無かったが、左右にかかる重力が変わる事でサムは自分が首を振っていることを知る。
「おい。何ぼけっとしてんだ」
暗闇の中に響く声。サムはその声に顔を上げた。否、正確には瞳を開けた。途端に遠くなっていた周囲の音が喧騒となってサムの耳に滑り込んでくる。朝のピークを過ぎて、人の姿もまばらなシアトルスタイルのコーヒーチェーンのなんという事はない光景がそこにある。
サムから三メートル程先、そこに声の主である兄が立っていた。
数メートル距離が開いてしまったのは単にサムが立ち止まっている間にディーンが歩みを進めた分の距離だ。
サムのたった一人の兄は右手にホットコーヒー、左手にアイスカフェモカを持ったままサムをじっと見つめている。そこでサムはようやく自分が今、カフェに居る事と今から狩りの下準備にとりかかろうとしている事、そしてその前段階の下調べをサムが一手に引き受けた代わりに、兄に自分の分のカフェモカをオーダーさせ、今まさに席につこうとしていた事を思い出した。
そんなディーンの表情はサムの想像通り不機嫌そうなもので、何処か訝しげな視線を投げかけてきていた。
「え?あ、うん。ごめん」
素直に答えてから、サムはしまった、と思った。ここで悪態をつく事が自分らしい姿であるはずなのに、それを忘れてしまったからだ。取り繕う言葉を考えたのは一瞬で、これ以上の沈黙は益々怪訝に思わせるだけだと判断したサムは慌てて歩みを再開させて兄の元へ歩く。
結局その行動にディーンは表情を益々訝しげなものに変えた。この場を流したいと思っているサムの思惑を裏切って、何時にないサムの様子に何かを敏感に感じ取ったその表情はしかめっ面に近いものになっている。
「おい。何だどうした」
「いや、本当にたいした事はないんだ」
たぶん、と口には出さずに最後の言葉をサムは飲み込んだ。正直な所、サムにもよく分からなかった。
眩暈のようだ、というのが正しいのだろうか。
***前半部分より抜粋***