(表表紙・裏表紙の見開きデザインはこんな感じです)
其れは自己犠牲の結果だと誰かが謂う。
其れはエゴの結果だと誰かが云う。
其れは喜劇だと誰かが言った。
失われていく楽園
(絶望を知りながら希望に縋る)
>>Paradise Lost preview
※サイトにて連載していた同名小説の加筆修正+書き下ろし2作を収録。
モノローグや会話等、S4以降と齟齬が無いように修正を加えています。
ルビーの辺りの修正と、兄弟それぞれの視点のモノローグを中心に加筆しています。
書き下ろしについてはS3ラスト後のディーンとサムから一作ずつ。短めです。ディーンのはかなり短めです。
サムの方にアミュレットネタを少し盛り込んでます(笑)
S3ラスト後の話なので、そういう雰囲気の話です(説明が大ざっぱ!)
「何、やめ…っ!」
押し返そうと動かした手は、簡単に兄に拘束され、ベッドに縫いつけられる。混乱して何も考えられない。ディーンは何も言わない。どうしてこんな事を兄がするのか、サムには何も分からない。ただ赤い花を咲かせている今も怒りに震えているのだろう。それだけは分かる。
「離、せっ…!」
「はいそうですか、って離してやると思ったら大間違いだ」
沈黙を守っていたディーンが口にした言葉は酷く感情が無かった。ただ耳元で囁かれるように告げられるその言葉の真意が分からない。サムは混乱したままに何か意味のある言葉を叫ぼうとしたが、力の入らない体は思考までも奪ってしまったのか、囁くような言葉にしかならなかった。
「怒っている、なら、殴ればい…い!何で、こんな事…!」
何もかもが分からなかった。
これならまだ、リリスの行動原理のほうが理解できる。
サムにとってディーンという存在は最後の砦に近い。絶対に裏切らない、兄なら最後まで自分の味方で居てくれているであろう、という盲目的な絶対の信頼。
このままでは其れが壊される。そんな本能的な予感が掠める。それだけは。
「いや、だ…っ、ディ、ーン!!」
言いかけた瞬間、ディーンのポケットに入ったままの携帯電話がけたたましく鳴った。サムの肩が驚きにびくりと震える。おそらく心配したボビーあたりがコールしているに違いない。
***後半部分より抜粋***
三流映画。
そう激情のままに弟にぶつけた言葉の主演はディーン自身なのだとディーン自身が分かっていた。弟はゲスト俳優だ。三流映画に巻き込まれた気の毒な人間でしかない。
『死んだ人間は生き返らない。そんな事も分からないのか。どうしてそんな馬鹿なことをした?』
そう言われたら、自分はどう答えるのだろうか。きっと答えられないのだろう。シナリオがそうなっている。
弟を救うために自分を犠牲にする、なんていう美徳が通用するのは所詮自己満足の世界でしかないのだ。
全てをかなぐり捨ててまで取り戻したかった。弟と生きる意味は同義語で、弟と未来は同一だ。
サムを守る。それが義務だとか、責務だとか、そんな考えはディーンの意識の中で遠く霞んでしまっている。そんな理由だけで今までサムを守ってきたわけではない。
ディーンは望んだ。確かに望んだ。そして欲した。心から手に入るか分からないものを欲した。
――サムが、欲しい。
サムを傍に置いておきたい。ずっと今までも、これからも。弟のいない未来はディーンにとってありえない。そんなものは無い。認めない。
***後半部分より抜粋***
ばたばたと未だ溢れる涙を止める方法をサムは忘れて、ぼんやりと光を失ったままのディーンの瞳を見つめる。その瞳にはもう何も映っていない。そしてその首元に見えるのはアミュレット。サムがディーンにプレゼントし、十年を越えてずっとディーンの首元に収まっていたそれ。
お守りだと、幼い自分はそれがディーンをずっと守り続けると信じていた。二人っきりで過ごしたクリスマスの夜、サムがそれをプレゼントした時のディーンの嬉しそうな表情も覚えているし、一緒に狩りをしていた三年間、それは当然のようにディーンの首元に収まっていた。特別な理由がない限り、いつもディーンは肌身離さずつけていた。そして現にどれだけ危険な橋を渡ろうともディーンは死ななかった。ディーンが親父を死なない存在だと思っていたように、サムもまたディーンは死なない存在だと思っていた。
なのに。
アミュレットはディーンを救う事は出来なかった。
それはサムがディーンを殺したようなものだと無言で突きつけられているようで、サムはどうしようも無い感覚に強く奥歯を噛んだ。
***書き下ろし部分より抜粋***