(表表紙デザインはこんな感じです)
「で、今度はどうした?俺たちはエクトプラズム退治の予定が入っていて忙しいんだ」
『そりゃ大変そうだが、こっちもそれなりに大変だぞ』
「世界が滅びるってんなら大事だがな」
『今更そんな大事が起こるもんか』
「じゃあ何だ」
『またハンターが殺された』
アポカリプスの終了。天使は空に、悪魔は地の中に。そうして戻ってきた“ただの”日常。
ハンターとして生きる場所を選ぶ二人、兄弟とは別の肩書きを共有する二人。
そうしてだた狩りをして人を救うという新たなスタートを切って数ヶ月。突然舞い込んできたのは、ハンターの連続殺人。
ボビーからの話でその事件を調査する事になった二人は、とあるハンターばかりが集うバーを訪ねる事になる。
>>夢の足音が聞こえる preview
・出発点は映画ブラッディ・バレンタインを元ネタにしたホラー長編でした
・しかし着地点は、似非ホラー事件モノ長編。……あれ、元ネタどこいった?になりました(笑)
・殺人などの残酷な描写、性的描写が含まれますのでR18です
・時間軸はS5後設定。全てに決着がついて、サムが地獄にいっていないというご都合主義すぎる設定です(わー)
・以下本編からの抜粋。事件ものですので、当たり障りの無い箇所を少しだけ(笑)
「――で?分かったとでも言ってほしいか?」
その言葉と同時にサムの目の前でナイフをちらつかせていた男の体が真横に吹っ飛んだ。男の体はそのままゴミのコンテナにぶつかり、派手な音を裏路地に響かせる。突然の展開に何事かと目を見張るもう一人の男の意識がコンテナの方に逸れた瞬間、今度はその男の体が前のめりに倒れてぐえ≠ニいう何とも形容し難い、くぐもった声が聞こえた。
路地にコンテナにぶつかって失神している男と、アスファルトの上で呻く男。その二人の姿を交互に見て、サムは困ったように息を吐いてから、見事なパンチを繰り出した男を見た。それは言うまでも無く。
「ディーン、」
男の頬に拳をめり込ませてコンテナまで吹っ飛ばし、もう一人の男を背中から足蹴りにしたサムの実の兄は、酷く憤慨した様子で呻いている二人のハンターを睨みつけていた。
この場は実力行使で切り抜けるしかない、と思いかけていた先までの自分を棚に置いて、サムがディーンに穏便に、と告げる。しかしディーンはそんなサムを少しも気にした様子は無かった。
「俺はナイフで脅したりしてないぞ。とてつもなく穏便な解決方法だと思うがな」
「そういう事じゃなくて、」
困ったように目尻を下げたサムをディーンは無視をして、呻くばかりの男達を見下げる。
その瞳の奥に潜む冷たい色に男達は息を飲む。男達とて、ウィンチェスター兄弟の名とハンターとしての実力を知らないわけではない。
「おい」
地を這うようなディーンの低い声が暗闇の色を纏って静かに沈む。
「次に弟に手を出してみろ。――分かってるな」
そんなディーンの殺気を滲ませた声に男達は、ひっと小さな悲鳴をあげた。
***
インパラに戻るなり、サムに届けられたのは少し不機嫌そうな兄の声だった。
「お前、急にいなくなるな。探したんだぞ」
「仕方ないだろ?あそこで騒ぎを起こすわけにいかないし」
「だからってなぁ、」
「これでまた僕、ウィンチェスター兄弟のなよっちい&って認識が広まった気がするんだけど」
サムは自分自身の言葉に眉を顰めてみせる。なよっちい≠ニは前に別のハンターに揶揄された言葉だ。サムにとっては不愉快な事この上ない。
ああいうハンターに絡まれる度に、何故かサムはリサーチ専門とでも思われているようで、兄に比べてなめられているような気がする、とはサムの抱く感想だ。ご丁寧にデビルズゲートもアポカリプスも知れ渡っているのなら、自分の情報も正しく伝わればいいと思うのだが、情報の伝搬というのはそう上手くいかないものらしい。
「なよっちい?合ってるじゃねーか」
サムの複雑な内心を軽く無視したその言葉に、ギロリとサムが睨むと、ディーンは降参とばかりに両手を上げてからインパラのキーを取り出した。
そして程なくインパラのエンジンは重い音を立てて呼吸を始め、ディーンがギアを入れ替えれば、インパラは益々重いエンジン音を立てて動き出す。
サムは窓から広がる街の明かりに視線を向ける。流れる明かりが瞳の奥の視神経を刺激していく。
「そもそもああいう奴らに話が通じるかよ」
「――そうだね」
不意にサムの声が沈む。ディーンの言う通りだった。取り返せない過ちに言葉で説明しようとしても無理だろう。それが如何に逆恨みの類だったとしても。
そんなサムの沈んだ気配に気がついたのか、ディーンが視線をサムに向け、そっと片手をサムの頬に触れさせる。
「…大丈夫か」
そこでやっとサムは自分の頬にうっすら赤い筋が入っている事に気がついた。先にナイフが掠めた時のものだろう。
「大丈夫だよ。それにもう慣れたよ」
「…慣れんな」
ディーンのその声は小さく、そして少しだけ乾いていた。まるでサムよりもディーンの方がこの状態を悔しがっているようで、それだけでサムは救われたような気がした。
***前半部分より抜粋***