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○死に逝く星に○※「罪業の果て」設定・12月の暦幕間 願いが叶う星に願う事は、たった一つ。ただ。 幸村がその流星群の存在を知ったのは、木枯らし吹き荒れるその日の昼。友人との会話の中だ。 『流星群?』 『そうだ!信繁、お前まさか知らなかったのか?』 『新聞に出てましたか?すみません、最近慌しくてあまりテレビを見ていなくて』 『何だ、時代の流れに乗っていないぞ!流星群は今日の深夜だ。結構な数らしいぞ』 『そうだったんですが…』 『何か願い事を願うと、いい』 『…兼続、さん?』 急に声のトーンを沈めた兼続を不思議に思って、幸村が顔を上げると、兼続は静かに微笑んでいた。 『信繁は無欲だからな』 満天の星空が臨める夜空では無かったが、何とか星は見えている。 暗闇の中に隠れた雲が夜空の一部を覆い隠して居るのだろう。幸村はこれ以上雲が広がらないように願いながら、自室の窓から空を見る。 窓は締め切ったままでも、窓辺に立てば冬の冷気が容赦なくじわじわと忍び入って、室内の気温を奪う。幸村はその冬独特の冷気に気分を害した風でもなく、ただ自然の流れを受け入れるかのように、手先が冷える感覚を味わいながら小さく窓を開ける。 一気に部屋に流れ込んでくるのは、頬を刺すような冬の香り。 「……」 幸村は暫し考えてからジャケットを手早く羽織った。些か行儀が悪いだろうと思いながらも窓枠に手をかけ足をあけ、無駄の無い所作で音も無くアパートの屋根に飛び上がる。今日は隣人も居ない。月が煌々と宵闇を照らしているわけでもない。幸村がこんな事をしていると思う人間が居よう筈も無い。人に気付かれ騒ぎになることはないだろうと算段をつけて。 屋根の上は遮るものが無いせいか、風が強かった。びゅうびゅうと叫ぶ風はまるで慟哭のように響く。 幸村は静かに空を見上げる。視界は窓から眺めるものよりもずっと広く、その闇色は深い。 流れ星に願掛けをすれば、叶う。その由来はどこから来たものか幸村は知らない。 そんな習慣は嘗ては無かった。嘗て戦場で見上げた星は地上で命のやりとりをしながら駆ける人間の存在など気にせずに、ただ輝き、時にその光は流れていた。 今もし願う事で叶うかもしれないのながら。 脳裏に浮かぶたった一人の姿を想って幸村は夜空をじっと見上げる。流れる命のような星の瞬きを待って。 「あ、」 ひゅん、と流れる光が視界の隅に入る。そしてそれを合図にして、ひゅんひゅんと幾つかの流星が姿を現せた。 夜空には雲がかかっているせいで、大量に見えるわけではない。それでも。 幸村は願う。 死に逝く星が最期の力を振り絞って願いを叶えてくれると言うのなら。 どうか、彼に果て無き安寧を。 自らが彼を惑わす存在に為り得てしまうのなら、彼の安全を脅かしてしまうのなら、自らも排除してくれても構わない、と。ただただ寒空の下、ささやかな願いを流れ星に願う。 死に逝く瞬間の美しい輝き、それが果たして本当に幸村の願いを叶えるのか、幸村はまだ答えを知らない。 END |