「あ。」 コーヒーでも。と立ち寄った深夜のカフェ。ディーンはホットコーヒーを飲みながら店内の閑散とした様子を眺め、サムはカフェモカを飲みながら地元の新聞で次の仕事が無いか探していた。 そんな折にいきなり呟やかれた兄の言葉。その声に弟は新聞から顔を上げた。 「何、兄貴?」 「思い出した」 「何が?」 「映画。主人公がお前に似てるって話。一つ違う所があった」 ず、と音を立ててディーンがコーヒーを飲むと、そのディーンの行儀の悪さか、それとも言葉の内容が気にくわなかったのか、サムが眉根を寄せた。 「…次の狩りの話に進みたいんだけど」 サムの言葉を聞かなかったふりをしてディーンは思うがまま話し出す。 「中盤の辺りで別荘の外に出た奴が斧で背中刺されたシーンあっただろ」 「僕の話聞く気ないだろ」 「あの時、お前にそーーっくりの主人公が言ったよな?助けに外へ出ようとする人間に“あれはジェイソンが僕達をおびき寄せる囮だ。外に出るな”って。そして見事に見捨てられた奴は殺された」 「ところで、何で主人公と僕が“そっくり”だって事を強調するんだよ」 「“外に出るな”って言ったよな?」 「…分かった、付き合えばいいんだろ?確かに主人公はそう言ってたけど?」 サムは押しに弱い。何故なら性格そもそもが聞き役なのだ。ディーンは思い通りに話が進んだ事に納得して、ソーサーにカップを戻して、静かに言った。 「お前だったら逆だ」 「兄貴?」 きょとん、とした真っ直ぐな瞳が向けられる。その幼い仕草に、なぜかディーンに静かな笑みが浮かぶ。 「真っ先に助けに外に出るだろ。全然親しい人間でなくても。見ず知らずの人間でも」 「……まぁ、そう、かな」 「謙遜か?サミー」 「茶化すな」 拗ねた様にテーブルの上に置いてあるディーンの注文したポテトを奪ってサムが言う。ディーンは気にした風でもなく、笑って言葉を続ける。 「お前なら絶対そうするな。真っ先に飛び出してジェイソンに思いっきり狙われる。まぁ乱闘にはなるな。…で。一回は吹っ飛ばされる」 「最後の一言が余計。」 「でもお前は見捨てないだろ?」 「……褒めるのか、貶すのか、どっちかにしてくれ」 サムは思いがけない兄の言葉に照れているのか、目線をカフェモカに戻した。けれどそれだけで終わるディーンではない。ポテトを一掴みしてから口に放り込んで、意地の悪い笑みを浮かべた。 「で、主人公の危機に俺が登場ってワケだ」 「何で主人公よりカッコいい立場で登場するんだよ」 「スター・ウォーズのオビ・ワンだと思っておけ」 「…無茶苦茶だ」 「そう言うなら兄貴だって逆」 形勢逆転。今度はサムとまではいかないがディーンも目を丸くしてサムを見る。 「…何がだ?」 「兄貴さ。捕まるのは僕だって言ってただろ?捕まるのが妹で助けるのが兄なら、僕らだったら捕まるのは僕、助けるのは兄貴って。じゃあ兄貴が主人公になったとする」 「女も口説けないあの主人公にか?お前並にヘタれてるじゃねぇか」 「黙れ。とにかく兄貴があの場に居たとする」 「それで?」 「兄貴も後先考えずに真っ先に助けに行くだろ」 もぐ、ポテトを租借している口の動きを止めてディーンは少し考えた。あの場に居て、助けるか否か。…まぁ弟のいう事は間違っては居ない。 「後先は余計だ。ヒーローと言え」 「よく言うよ」 「目の前で死なれたら夢見が悪すぎる」 ただそれだけだ、というニュアンスを含めてディーンがコーヒーを飲むと、サムは意味ありげに少し笑った。その笑顔に“人を助けるんだよ”と自分達の仕事を評した己の言葉が思い出されて、ディーンは何とも言えない気分になった。 「だろ?で、兄貴も乱闘。…僕の助太刀いるだろ?」 「俺は一人でも十分。絶対に勝てる。」 「意地っ張り。」 「生意気。」 一瞬だけ途切れた会話。 閑散とした店内に響く、古いバラードの曲。ディーンの好きなロックでは無かったが、まぁ悪くない。 「……ん?」 不意に小さく呟いたのは、今度はサムだった。 「いきなり呟くな、サム」 「あんまり言いたくないんだけど」 「何だ、言えよ」 「僕だったら助けに行く」 「ああ」 「兄貴でも助けに行く」 「だから?」 「今までの僕らの狩りの時もさ、あんな場合だったらいつでも、」 そこまでサムが言いかけて、ディーンは慌ててカップをソーサーに戻して会話を中断する仕草を見せた。 「……待て待て、その先は言うな」 「言えって言ったのは兄貴だ」 「…強情」 「僕らの行動原理は…一緒って事?」 まさに、またしても決定打。 「……」 「……」 静かな店内。響くバラード。 「認められるか」 「…僕も」 2人がどちらともなく呟いてから。 無言のまま2人は同時にカップに口をつけた。 |
【猟奇殺人における、ある兄弟の会話 A】