サム役ジャレット主演映画『13日の金曜日(09年)』を見た
ウィンチェスター兄弟の会話という設定です。
ジェイソンという言葉だけご存知でしたら問題ありません(笑)




ディーンはご自慢のインパラを運転しながら、さっきまで息抜きに弟と2人で久しぶりに映画館で観ていた(弟となんて色気は全く無いが)、ホラー映画の事を考えていた。
内容はあったかといえば無かった。インテリの弟はただ映画の登場人物が死んで行くだけの展開に不満そうだったが、ディーンはそこそこ満足していた。普段から謎解きのような仕事をしているのだ。何も考えずにホラーを見るのもいい。難しいのは自分達の日常で充分だ。
「……」
そんなことを考えていると、ふと映画を見ている時からぼんやりと思っていた言葉が頭をもたげてくる。黙っていようとも思ったが、一度考え付いた事はそう簡単に消えてはくれない。
「…サム」
「ん、何?」
純粋な瞳を向けてくる助手席の弟に、ディーンは思っていた事を素直に口に出した。

「主演さ、お前に似てなかったか?」

その兄の言葉は弟にとって瓢箪から駒だったらしい。サムは一瞬だけ瞳を丸くしてから、その後不審そうに顔を歪めた。
「は?あの妹を探す兄の役?まさか」
「いや、かなり似てた」
「何処が」
「顔。お前のほうがひ弱そうに見えるけど」
「…ディーン」
ディーンのからかいに思ったとおりのサムの素直な反応がおかしくて、ディーンは少し笑う。
「他にもある。女に優しい。でも恋に落ちない。そんでもって丸腰」
ディーンの畳み掛ける台詞にサムの瞳がだんだんとジト目になってくる。面白くない時のサムの独特の表情。人当たりの良い弟は他人の前で露骨に表情を変える事はしない。こんな表情をするのは、ごく近しい人間にだけ。言ってしまえばディーンにだけだ。
「何時僕が丸腰だったって?」
「あ、今のはナシ。あ、本音か」
「…後で覚えてろよ、ディーン」
サムはそう呟いて視線を前に戻した。どうせ自分の弟のすることなど知れている。今晩からは悪戯の攻防戦だ。それさえ何だか愉快でディーンは内心で笑った。

「でもディーン。おかしいと思わないか?」
「“おかしい”?」
いきなり切り出された弟の言葉の真意が分からず、ディーンは思わず言葉を反芻した。
「妹を探しに行くのに銃も無く丸腰なんて」
その言葉にディーンは小さく“ああ”と呟いた。映画のことをすっかり意識の外に追い出した兄とは違って、弟はまだ映画のことを考えていたらしい。
「本当に探すだけのつもりだったとか。俺達みたいなハンターだったらまだしも、素人だったらあんなもんだろ。もしかしたら登録した銃を持ってないとか」
「殺し方がエグい。そんな中でポップコーンを何事も無く食べてた兄貴を心から尊敬するよ」
「殺し方はジェイソンの趣味だろ。俺のポップコーンキャラメル味に影響は無い」
まぁ確かに凄まじい勢いで人が殺されまくっていた。現実より作り話の方が良く出来ているとは言い得て妙で、自分達が仕事をしている時でさえあんな凄惨な現場は見たことが無い。ありとあらゆるホラー映画やスプラッタ映像を見つくしてきたディーンは別に何とも思わなかったが、サムにはそうではなかったらしい。尚も彼は疑問を呈する。
「でも何となく腑に落ちない。13日の金曜でもないのにジェイソンが?しかもラストを観たら、ジェイソンは人じゃない可能性が高いよ」
「基本的にあれだけ人が殺されてたらおかしいだろ。現実で人が何人も消える事件があったら俺達が即調査だな。ハンターとして」
「ただの猟奇殺人だったら最悪だ」
サムがうんざりと呟く。
そういえば、ちょっと前に自分達の領域の仕事だと思って、犯人は人間だったというとんでもない事件に巻き込まれた事があった。あの時は最悪だった。命を危険に晒されるだけじゃなく、サムは捕まり、自分も身分詐称で逮捕される所だった。
「聖水かけても何もナシで、塩弾を込めた銃でも効き目ゼロで、銀もダメだったらな。必死で逃げる…あんな死に方は絶対にゴメンだ。悪霊になる」
映画として観れば完全に他人事だが、いざ自分がああなると考えると話は違う。あんな死に方は絶対にゴメンだ。
「…ジェイソンが人間だって分かって必死で逃げる前にジェイソンが何者か下調べすべきだろ」

「出た。」
「何だよ?」
「調査の鬼。」

馴染んだ応酬に今度はサムが盛大にため息をついた。
「人間だったら僕らの領域じゃないだろ。調査すべき。まずは映画の冒頭の1980年の事件から。で、聞き込み」
「甘い。調査するんだったらあの池の周囲だぞ?その間に捕まったら?あの妹みたいに。…なら捕まるのはお前」
「何で僕なんだよ」
「兄貴が助けに行く設定なら弟のお前が捕まるのが筋だろ」
何時もの調子ですらすらと兄弟の言いあいは進む。
あまりに何時もの調子で。
そう、いつもの。だから2人は気がつかなかった。

「僕が一ヶ月以上も大人しく捕まってると思う?すぐ逃げる」
「俺がお前を探すのに一ヶ月もかけると思うか?すぐ地下室を見つけてやる」

2人が気分良く言い終わった所で、2人はふと我に返った。
そして自分が言ったことを反芻する。
「……。」
「……。」
インパラのエンジン音しかしない車内。それは静寂と同じだ。
2人は同時に同じ照れくささといたたまれなさを感じながら、妙に車内を漂うおかしな空気を意識してますます混乱した。
その静寂を最初に破ったのはサム。運転をしているディーンより分が悪かったのかもしれない。
「…僕らハンターだろ?当然だ」
「まぁ当然だ…でも」
「何?兄貴」
「お前を助けるのが俺の役目」
「じゃあ僕は収集した情報で兄貴を助けるのが役目だ」

「……。」
「……。」

しまった、また墓穴だ。
何故ジェイソンでこんな会話に発展したのか。ディーンは今までの会話を思い出そうとしたが、見事に失敗した。
「兄貴。とにかく、さ」
「ああ、とにかく、だ」


「「次の街を目指そう」」


とりあえず。
そうして兄弟の混乱を載せたまま車は次の目的地に向かう。



【猟奇殺人における、ある兄弟の会話 @】