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俳優、という職業を生業にしている人間の生活レベルをサムは知らない。 知らなくて当然だ。サムは俳優ではないし、ましてや普通に会社勤めをした経験があるわけでもない。せいぜいよくてアルバイトで、真面目な大学生だったという程度くらいだ。今まで生きてきた人生を省みれば、総じてマトモな生活をしてきたとはお世辞にも言い難い。 ともかくもサムは俳優という人間と親しくないから生活レベルを知らない。そういう意味では至極全うに社会生活を送っている大多数も俳優という人物の実際の所の生活は知らないのだろう。 それでも俳優志望の卵は極貧生活を強いられているだろうという想像は容易にできる。出所はテレビの中のドラマの中の設定だったり、今やスターとなった俳優の下積み時代のインタビューだとか、ドキュメンタリー番組だとか、そういう類からの情報だ。信憑性に欠けると言えばそうだとも言えるし、メディアが作った虚構だとも言えなくもない。 だがしかしサムは実際に数多の女優を夢見てバーで働いている女を見てきた。 それは純粋に立ち寄ったバーでの世間話だったこともあるし、または事件の関係者だったことも、果ては被害者だったこともある。 しかしサムが今まで出会った女の顔をテレビの中で見たことはない。往々にして夢を実現するのは大多数の中の一握りなのだろう。 もちろんサムが気がついて居ないだけで、出会った女の中にはもうすでにテレビの中でちょっとした役で夢を掴みかけているのかもしれないし、舞台で初めての台詞を口にしているのかもしれない。もしかして腕のいい外科医に整形をしてもらってサムの記憶の中のものとは一致していない夢追い人もいるのかもしれない。 もっともスターには5年程度でなれるものではないだろうから、今後数年、もしくはもっと長い時間を経れば、彼らが夢叶えた姿に出会う可能性は否定できないのだが。 *** 安い紙に印字された小さい文字がゲシュタルト崩壊を起こし、視界がチカチカと点滅し始めたのをいい機会としてサムは警察の調書から顔を上げた。 「頭痛い」 呻いて一言。言葉に出すとはっきりこめかみの辺りがズキズキと痛んでいることを自覚する。 紙の上の文字が意味のあるものとして頭の中に入ってこない。夢中になって思ったより集中しすぎたようだ。腕時計を確認すると、最後に時計を見たときから2時間が経過していた。 頭が重い。今の内に休んでおかないと数時間は引かない鋭い痛みへと発展するだろうと当たりをつけてサムは資料をひとまとめにする。 「ディーン?ちょっとこっちの資料の、」 分析を頼む、僕はちょっと寝るから――と言いかけてサムは部屋の何処にもディーンの姿が無い事に気がついた。 「ディーン?」 さっき洗面台に顔を洗いに行くと言っていたはずだが気配がない。ディーンのベッドの上には無造作に置かれたままの資料と電源の入ったままのPCがある。 サムとディーンが今かかっている事件の資料分析に取りかかったのはおおよそ4時間ほど前の事だった。 ディーンは資料を読んでいたサムとは別にネットで過去の新聞記事を資料を検索していたのだが、早々に集中力を切らしたらしく、サムが気付いた時には投稿型の動画サイトを見て笑い転げていた。こっちはサボらずにやっているのに何事か、と一度頭を殴ってやろうかとも思ったがサムはぐっとこらえた。経験から相手をするとロクな事にならない。サムは液晶画面を見つめてくつくつと肩を揺らしていた兄を黙殺した。 案の定、サムが決定的に無視をし続けた結果、ディーンはいつの間にか資料に視線を戻していた。世界の動物ハプニング集というタイトルの動画を一人で見続ける事にも飽きたのだろう。 そうして、集中力が切れた顔を洗ってくる、とか何とか言っていたのがその少し後の事だ。顔を洗うのにそんなに時間がかかるものだろうか。 サムも資料に目を落としながらのことだったから、それが正確に何分前のことかは覚えてはいないが、ついさっきの事でもないはずだ。 「ディーン?」 サムは周囲を見回してディーンの名を呼び、そして返事が一向に戻ってこない事を確認すると椅子から腰を浮かせた。 机の上にインパラのキーはある。携帯も財布もその隣に。ならば何処かに出かけたわけではないだろう。 「ディーン?」 もう一度呼ぶ。だが返事はない。 浴室の方に人の気配はないように思えたが確認のためにサムが一歩足を進めたとき、ガタンという音がした。矢張り浴室の方からだ。 「ディーン?いるのか?」 返事が無いことを訝しみながらもう一度声をかけると、一つの人影がサムの前にのっそりと現れた。 「…なにしてるの」 そこにディーンが居た。居たと言うよりはバスルームから出てきたのだが。 それはいい。なんら問題は無い。問題はその姿がいつもの兄とは――少し違っていた事だ。 「…バスルームでパーティーでもしてた?」 何故かディーンの口から顎にかけてべったりと付いていたのは、――クリームだ。 どう考えても髭を剃ろうとしてシェーバーのクリームが飛び散ってしまったとかどういう事ではないだろう。顔を洗おうとしてソープの泡を塗りたくったということでもないはずだ。ならばどういうことだ。 「ディーン?」 そこでサムは気がついた。 何か、変だ。 ディーンは果たして今日黒のニットを着ていただろうか。いやそもそもディーンがニットを持っていた記憶がない。というかディーンはニットを着ない。 サムはディーンの頭のてっぺんからつま先までまじまじと見つめた。 そして目の前のディーンもサムを頭の先からつま先までを殊更じっくりと見つめている。しかも不思議そうに、瞳を数回瞬かせている。互いに相手を不思議そうに見つめているというのは第三者から見れば甚だ滑稽な姿だろう。 そしてディーンはこう言った。 「ジャレッドじゃない…よな」 「は?」 何を言い出すのだ。この兄貴は。というかジャレッドとは誰だ。 …と思った事がサムの表情にそのまま出てしまったのか、サムの顔を見たディーンは何とも気まずそうな顔をして周囲を見回す。ぐるりと周囲を一周。そして天井の方を見て、窓の外を見て、もう一度サムを見る。その瞳は困惑しているようにも、戸惑っているようにも見える。言い換えればそれは全くもって兄らしくない類の表情だ。“普通の人”に見える。 「だよな。そうだよな」 「何を…?」 不審気にに変わる視線を押さえる事が出来ずにディーンを見つめていたサムだったが、ふとその動きを止めて考え込んだ。 ジャレッド、という名前に聞き覚えがある。 独特な響きに発音の際になかなか苦労したのだ。正確に言うなればパダレッキというファミリーネームの発音に。 あれはそう簡単には忘れない出来事だ。加えてあの時のインパクを考えると。非常識な経験しかしてこなかったが、あれほど非常識な非常識な経験は今後しないのではないか、と思うほどの出来事だった。 「……」 まさか。 サムは確信を持ちつつも、未だ疑いを捨て去ることを認められずにまじまじと口にクリームをつけたままの男を見る。 普段は着ないニットの服、見目のよい顔立ちはいつもよりもニュートラルな印象を受けるし、その姿は洗練されている一方、何故かいつものディーンより少しだけ無防備にも見えた。 まさか。そのまさかではないのか。 「まさか…ジェン、セン?」 記憶を頼りにサムがおそるおそるといった風に声をかけるとその瞳が真っ直ぐにサムをとらえた。ひたりとサムを捉えて離れない。その迷いの無い真っ直ぐな視線に思わずサムがたじろぐ。 ジェンセン・アクレス。向こうの世界でディーンを“演じている”俳優。 「本当に?サム、か?サム・ウィンチェスター?」 「…冗談、だよね?」 「…俺も冗談だと言って欲しいが…。カメラもないし。ここは…セットでもないか。どうやら冗談じゃないみたい…だな」 ――ああ、まずい事になった。 >> |
パラディンの手
短めですが、キリがいいので。次で終わります。