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○要らない笑顔○



笑顔は彼の専売特許だ。


彼自身に専売特許と言って誇るつもりもなければ、驕るつもりも一切無いが、どうやらそういう事らしい。
それを知ったのは彼の兄の言葉だ。以前、派手に喧嘩をして一度別行動をした時があった。その際、巻き込まれた狩りの際に随分と苦労したらしい。詳細は知らないが。

そう聞かされて初めて、サムは笑顔について意識の隅に置くことが多くなった。
明確に意識はしていない。相変わらず狩りの時には聞き込みはするし、笑顔がどうといって何が変わるわけではない。
ただ、笑顔で相手の話を聞きやすくなったり、信用してもらえるのならば、それもスキルの一部だろうとサムは思っている。彼の兄、ディーンにそのスキルが無くとも、サムにない物をディーンは持っているし、二人で一緒に行動しているならば補えばいいだけの話だ。完璧な人間は二人もいらない。
ただ、そういえば。と思いを巡らせれば、なるほど確かにサムは笑顔を浮かべている。聞き込みの際に、人を安心させるときに。
これは自分の長所なのだろうとサムは思っている。そしてこれが無言の防御なのだということも。
笑顔は介入を許さない。敵を作らなければむやみな進入はないし、上辺だけのつき合いに適応しやすい。人と深く関わらなくて済む。それは各地を転々としてきたサムの生い立ちに由来しているのかもしれない。

ただ、同時にサムは気がついた。
自分が全く笑顔を浮かべないでいい存在がいるということに。
むき出しの感情、他人には見せないちょっとした苛立ちや不機嫌な顔――そういうものを何の意識もせずにただあるがままに表現し、ただ在るがままに受け入れてくれる存在。

そう、他の誰でもない兄だ。

今日も相変わらず車の中でくだらない言葉の応酬をしながらサムは思う。
もしかしたら。ともすれば笑顔を貼り付かせなければならない自分の立ち位置を兄は熟知していて、それを崩してただのサム・ウィンチェスターに引き戻すために彼は時にサムをわざと怒らせるのではないかと。


そしてそれはサムにとって、とても重要な事ではないかと思うのだ。



END