話には聞いたことがある。それが互いの互いへの印象だった。 一方はこんな話を聞いていた。法学に秀才がいる。ロースクールで高得点を叩き出した男で品行方正で人当たりはいいが根は真面目で、遊んでいる所を見たことがない――そんな噂話だ。 もう一方が聞いた話はこうだ。経済学部にやたら男前がいる。何でもそつなくこなし、適度に女遊びもするが後腐れ無くやる男で、成績も要領よくやるおかげで悪くない。とにかくイヤミなほどいい男で要領がいいのだ、と。 そんな二人には互いに接点がない。学部が違う上に放課の過ごし方――一方は真面目に勉学に励んでは生活費を稼ぐためにバイトをし、一方は大学生らしくスマートに遊んで人生の春とモラトリアムを謳歌する――が全く違うのだ。接点がある方がおかしい。 が、しかし時に運命は面白い駒を振る。 そしてそんな駒の巡り合わせがその後の人間の運命を決定つけるほどに。 *** 「…幽霊?」 そのサムの言葉は自分で思っていたよりもずっと大きく響いて、逆にサム自身が自分の声に驚いた位だった。 それは今日の最終の時間割に設定されている講義が終わって、帰路につきながらサムが数人の友人達と出された課題について話をしていた時の事だった。事例を元に法的解釈をしながら何の罪に問えるかという刑事訴訟法の課題のアプローチの仕方だったはずだ。その話から何故そんな所まで話が飛んだのかサムにはよく分からなかったが、友人の中の一人が突然思い出したように言い出したのだ。 図書館に幽霊が出るらしいのだ、と。 「…幽霊?出るの?図書館に?」 友人たちはそんなサムの様子が珍しかったのか、“やけに食いつくな、サム。幽霊に興味でもあるのか?”と楽しそうに笑って見せた。そんな友人達にサムは思わず顔を出しかけた何時もの癖、若しくは、もう一つの顔を誤魔化す為に曖昧に笑うしか出来なかった。 そんなサムの様子は友人達には功を奏した様子で、あくまでもサムが幽霊に興奮してみせた事を恥ずかしがっているのだろうと勝手に解釈したらしい。何せサムは法学部でも一目置かれている頭脳の持ち主なのだ。友人達は“サムも子供みたいなトコあるんだな”と親しみを込めて矢張り少しおかしそうに笑ってみせるだけだった。 それでもサムが少し興味がある素振りを見せている事が余程珍しかったのか、友人たちはサムに図書館の幽霊の噂を事細かに話して見せた。幽霊なんて信じていない者達が語る幽霊話は所詮娯楽でしかない。友人達は面白おかしく話し、その場は話される内容に反して和気藹々としたものだ。 もちろんサムもそんな周囲に迎合する。それがサムのスタンスだからだ。 しかし。 へぇそうなんだ、と物珍しい話にしきりに感心してみせているサムの穏やかな表情に隠された瞳の奥に鋭い光が灯っている事には誰も気が付きはしなかった。 * 「幽霊?」 へぇ、と呟いてみせてディーンはカクテルの入ったグラスをカウンターに置いた。カウンターに置かれたカクテルグラスはバーの暖色の明かりを柔らかく吸収しながらその色の深みを増す。 人生を謳歌する大学生には少し大人びたバーでも場所負けをしていないディーンは今日も今日とて刹那の出会いに花を咲かせる。ディーンの好みに見事に一致した化粧で着飾った女と意気投合し、ディーンは刹那の逢瀬を楽しんでいたが、女の瞳の中に灯っているのは本気の色で、その上同じ大学と言う事が会話の中で分かり、ディーンはその女を狙いから外した。ディーンが楽しむのは刹那で、本気の女やましてや同じ大学となれば、後腐ればかり残ってしまうのは火を見るより明らかだ。それはディーンの好むところではない。 今日はとりあえず会話を楽しんで終わりだ、と思っていた所で女の口から出てきたのは、母校の図書館に出る幽霊の話で、ディーンは聞き直さずにはいられなかった。 「それ詳しく教えてくれない?」 ディーンのその言葉に、えー幽霊なんて信じてるの?とおかしそうに笑う女。ディーンは完璧な笑みを浮かべて、ただ興味があるだけ、と答えてみせる。 ただその瞳は少しも笑ってはいなかったが。 *** サムが聞いた話はたったこれだけだ。 図書館に若い女の霊が出る。時間は決まって深夜。他に誰もいなくなった閉館間近の閉架書庫の部屋の隅に睨むように立っている――。 たったこれだけだが、この女の霊を見ると決まって本が落ちてきたり、酷い時は本棚が倒れて怪我をするという話も付随してきていた。 これだけだとただの噂の域を出ない話だが、その中には見過ごせない真実も交じっている事をサムは既に見抜いていた。サムにこの話を聞かせた友人たちはあくまで噂話だと信じて疑ってはいなかったが。 もちろんだろう、とサムは思う。それが普通の反応で、それが真実を反映した正しいものではないにしても、当然の事だ。しかしサムはその話を嘘だとは微塵も思っていない。それが友人達が代表する普通と普通の大学生であるサムとの決定的な差だった。 サムは友人達から話を聞いた後、寮には戻らずにそのまま大学に舞い戻った。 時は既に夜。人気が完全になくなった頃合いを見計らって図書館に向かったサムはその鍵穴に手持ちのクリップを差し込んだ。大学の防犯のために施錠など甘い。ものの数秒でサムは図書館のドアを開け、闇夜に紛れるようにして、するりとその体を図書館の中に忍び込ませた。 閉館時刻を疾うに過ぎたその場所は非常灯の明かり以外は何も無く、静まり返ったそこは酷く不気味だ。 しかしサムはそんな光景を気にした様子もなくポケットからペンライトを出して周囲を照らす。 「……」 辺りのどんな異変をも逃すまいと注意を払いながらも目指すは閉架書庫だ。霊が出るというその場所だけを目指してサムは音もなく進む。 その時、僅かに聞こえた物音にサムは一瞬だけ動きを止めた。 聞こえたのはガタリ、という僅かな音。そしてその音はサムが今まさに進もうとしていた閉架書庫の方から響いてきている。 サムは無言でジャケットの中から銃を取り出した。中に実弾は入っていない。人間を相手にしていないからだ。装填されているのは塩の弾。サムが相手にするのは人間ではない。だから実弾は必要ない。必要あるのは塩で、それはサムが相手をする霊に効く物質。霊を追い払うためにまず一義的に使われる塩がサムの銃には常に込められている。 「……」 書庫の前まで進めば、その中に何かの気配があることをサムははっきりと感じ取った。ノブを静かに持って、サムは内心でカウントを始める。叩き込まれた一連のプロセスをサムは今まで違えたことは無い。こういう場合にはどうするか、独りで霊に対峙する時には少しの油断もするな、そんな教えがサムの身体には染み付いている。 3、2、1――ゼロ、の言葉と同時にサムは勢い良くドアを開けて銃を構えた。けたたましく響くドアを開ける音をサムは気にせず、ただその中にいるであろう霊に照準を合わせる事だけに集中する。 「……?」 しかし。サムはその違和感に動きを止めた。それは一瞬の事だったが、サムには十分すぎる時間だった。書庫の奥に確かに影はあった。しかし何故か書庫の奥の影は明らかに女ではなく、何故か相手も銃を構えていた。 「「誰だ!」」 互いに叫んだ言葉が同じもので、それだけでサムは相手を人間だと直ぐに見抜いた。霊はこんなにも明瞭には話さないし、そもそも侵入者の正体を探ろうなどとは絶対にしない。そんな事をする前に攻撃にかかる。ならば相手は人間。目の前のシルエットやその様子からも、それは明白だった。 ならば何か。サムは次に強盗の類かと考えた。シルエットの構えがサムと同じく銃を持っているときのそれと同じだったからだ。だとすれば圧倒的に不利だ。サムは体術に覚えはあったが、実弾入りの銃を持っている相手には分が悪い。何せサムの銃の中に入っているのは塩の塊でしかないのだ。 内心だけで苦々しい感情を持て余しながら次にどうするかサムが考えた時、相手の男の銃を持っていない片の手の中に一般人には見慣れぬ、だがサムにとっては見慣れ過ぎたものがあった。 「……EMF?」 間違いない、EMFだ。 思わず呟いたサムのその言葉に目の前の男も僅かに驚いたようだった。サムの中から警戒心が解けるのと同時に、相手の男も警戒を解いて、二人は暫し見つめあった。 書庫は酷く暗い。相手の顔まではよくは見えない。だが相手もサムと同じくらいの年なのは間違いないだろう。もしかしなくともこの大学の生徒ではないだろうかとサムは目測をつけた。 そしてそれよりも確かな事が一つある。そして目の前の男もサムと同じ事を考えているはずだ。 「…お前もハンターか?」 矢張り間違っていなかった。相手も“そう”なのだ。 思っていた事をそのまま問い掛けられ、自分の予想が寸分も違っていない事を確信したサムは返事の代わりに小さく息を吐いたのだった。 |
共通点のない二人の共通点とか
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10万打フリーリクエスト:兄弟ではないDSパラレル
がっつり続きます。DSの要素がまだ無くてすみません…!(汗)